雇用労働に従事する女性が増えるにつれて,どの国でも出生率が下がることになった。しかし女性の労働力参加が出生率へ与える負の影響は,アメリカやスウェーデンといった少子化を克服した国においては,ある時点から中和されるようになった。おそらく,スウェーデンでは,長期的には公的両立支援制度の影響,アメリカでは民間企業主導の柔軟な働き方の影響で,女性が賃金労働と子育てを両立しやすくなったからだと思われる。その後,女性の労働力参加と出生率との関係はいよいよ反転し,女性が働くことは出生率に正の効果を持つようになる。これは不況あるいは経済成長の鈍化のなかで若年層の雇用が不安定化し,それへの対応として男女がカップルを形成し,共働きによって生計を維持するというケースが増えたからである。個々の雇用が不安定化しても,二人いれば家族としてやっていける,という考え方だ。こうして共働きが合理的戦略となり,さらに仕事と子育てを両立しやすい環境が整っていれば,女性が働くことは出生率に正の効果を持つ。この転換の背景には,スウェーデンでは女性が公的セクターに大量雇用されたこと,アメリカでは民間セクターで女性がますます活躍するようになったことがある。女性が結婚・出産後も長期に働くことができる素地があれば,経済の不調による男性雇用の不安定化に際して「共働きカップルを形成する」という選択肢が合理的となる。そのことが女性の労働力参加と出生率のプラスの関係を生み出した。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 69-70
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