日本では,正規雇用と非正規雇用ではかなり大きな賃金格差が存在する。この格差は,正規雇用社の賃金が比較的低い20歳代においてはそれほどではないが,30,40歳代となるにつれて大きくなる。年間収入を130万円未満に抑えていた有配偶女性は,「壁」制度がなくなったからといって,すぐに正規雇用に移行できるわけではないだろう。そのため,「壁」以上に稼ぐためには,非正規雇用にとどまりつつ,労働時間を長くするしかない。たとえば時給が1200円で1日8時間,週5日働いたとしても,年収は230万円程度である。これでは,すでに夫が安定した所得を得ているような場合には,時給が上がらないかぎり,労働時間を延ばそうとする女性はそれほど多くならないのではないか。他方,非正規雇用で生計を立てているような人だと,そもそも最初から「壁」制度の恩恵を受けていない。つまり,「壁」制度となっている配偶者控除制度,第3号被保険者制度を廃止しても,その効果はすぐには表れないと予想できる。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 98
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