実は,私たちは職務内容がある程度限定されている労働者については,その職務の名前で職業を表現し,限定されていない場合には「普通のサラリーマン」,あるいは単に「会社員」と表現するのだ。この職務内容の無限定性は,第3章で詳しく説明したように,特に日本において広く普及した働き方だ。日本の「正社員」は,入社する前に職務内容が限定されることがほとんどない。「社員」は会社のニーズに応じて,柔軟に職務内容や勤務地を変えながら働き続けるのである。そのため,日本企業では採用や昇格・昇進にあたって周囲への適応能力,コミュニケーション力といった抽象的・潜在的な能力が重視される。
このため,日本企業は基幹労働力,つまり「総合職」として外国人を雇うことを避ける。様々な職務に柔軟に対応できるスキルに欠けると思われてしまうからだ。ただ,もしその外国人が日本の大学などで一定期間の教育を受けている場合には,採用する可能性が多少高くなる。しかしその場合,「教育を通じて得た知識やスキル」が買われているのではなく,一定期間日本で生活しているということが,前述した抽象的な能力の証になり,不定形な働き方にフィットすると考えられるからである。また,職務無限定的な総合職ではなく,研究・技術職であれば移民労働力がある程度受け入れられている。そういった限定的な働き方であれば,職務内容に柔軟性が求められず,コミュニケーション力や潜在能力を重視する必要が(相対的に)小さいからである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 155-156
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