日本の労働社会は大企業を中心とした,「日本型雇用」に大きな信頼を置いて成り立ってきた。日本型雇用では新入社員を終身雇用・年功賃金で守るとされているが,それだけではない。彼らの能力を向上させることで,これを達成するのだ。
若者は「能力の向上」と将来の見返りを期待して,一生懸命にはたらく。多少のサービス残業や理不尽な配置転換があったとしても,会社に尽くそうとする。日本人の「労働モチベーション」の高さは,世界的に見ても際立っている。
だからこそ,こうした「使い潰し」戦略を成長大企業が採ったことのインパクトは大きい。大企業ならば,能力の向上や終身雇用に対する「期待」もなおさらだからだ。いわば,ブラック企業は「日本型雇用」への期待,日本社会に培われた「信頼関係」を逆手に取っている。厳しい命令はそのままに,年功賃金や雇用保障といった「見返り」がないのがブラック企業の労務管理なのだ。
今野晴貴 (2015). ブラック企業2:「虐待型管理」の真相 文藝春秋 pp. 32-33
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