下水道に関連する公衆衛生の不祥事が初めて起きたのは,1827年のことだ。きっかけは,ジャーナリストで議会議事録の編集者でもあったジョン・ライトが執筆した,100ページを超える扇動的なパンフレットで『ドルフィン,あるいはグランド・ジャンクション社の迷惑行為——ウェストミンスター及びその周辺の7000世帯に供給されている水は,見るも不快で,想像するだけでもおぞましく,健康を破壊する状態にあることの証明』と題されていた。ライトはグランド・ジャンクション水道会社が,テムズ川から蒸気機関で水を汲み出していること——そして,同社が吸水する配管は下水の排水口から数メートルの位置にあること——を明らかにした。給水管の位置はきわめて明確で,木製の係船杭,「ドルフィン」がすぐそばにあった。給水した水は貯水場(不純物が沈殿して取り除かれる)を経由せず,濾過もされずに7000戸の家庭に届けられ,その多くがウェストエンドの貴族の家庭だった。首都のエリートは薄められた排泄物を供給されて,飲み物や料理や洗濯に使っている——しかもその特権に大金を払っているというわけだった。
リー・ジャクソン 寺西のぶ子(訳) (2016). 不潔都市ロンドン:ヴィクトリア朝の都市洗浄化大作戦 河出書房新社 pp.74-75
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