工場から流出した化学薬品が下水道の汚水と反応して,中毒事故が起きたケースもあった。1875年,ワンズワース地区の委員会に雇われた洗い流し作業員の一団が,「ウォレス薬品製造会社」の工場の敷地に近い支線下水道に入った。そこでは,「道路の通気口が……(中略)……夜になると濃い高熱の蒸気を放出する」ため,通行人が気分を悪くするので,地域住民で組織した「抗議委員会」が,以前から抗議を行っていた。下水道の中の工場の排水口からは「作業員の手にひどい火傷を負わせて,あらゆる色に変えてしまう青い物質」が噴き出ていた。ごみを取り除こうとしていた作業員は,突然,「ジンジャービアを開けたときのような,シューッという音」の蒸気と硫黄のにおいに襲われた。四人の男はみな意識を失って倒れ,うちひとりは死亡した。
リー・ジャクソン 寺西のぶ子(訳) (2016). 不潔都市ロンドン:ヴィクトリア朝の都市洗浄化大作戦 河出書房新社 pp.146
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