ロンドンには下水の他にも頭の痛い「廃棄物除去」の問題があった——死体の処理である。埋葬の方法については,ほとんど議論は行われなかった。土葬が主流で,火葬は外国の特殊な習慣と考えられていたからだ。問題は,増え続ける死体を収容するスペースを見つけることにあった。首都の人口は急増し,教会墓地や埋葬地,地下納骨所は死体で満杯で,結果として,需要が供給を上回った場所は,どこも不快極まりない状態だった。深さ6メートルほどの縦穴に,棺を積み重ね,一番上の棺は地面からわずか10センチメートルほどのところにある。腐った遺体は,新参者に場所を譲るために,かき乱され,バラバラに切断され,破壊されることも珍しくない。掘り返した骨を不注意な墓掘り人が落とし,墓石の間に散らかして放置し,棺は粉砕されて貧困者に薪として売られる。聖職者と寺男は,埋葬料が収入の大半を占めていたため,この最悪の習慣に目をつぶっていた。また,墓掘り人の仕事を間近で覗いたりすれば,おぞましい光景が待ち受けていた。
リー・ジャクソン 寺西のぶ子(訳) (2016). 不潔都市ロンドン:ヴィクトリア朝の都市洗浄化大作戦 河出書房新社 pp.163
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