ジェームズ・フリン自身は,自らの名が冠せられたこの効果の意味について考えを変えたように思われる。フリンはかつて,IQの長期的な上昇は実社会の知的能力の向上とは関係がなく,それがどう説明できるかは不確かなままだという意見だった(フリンが懐疑的だった理由の1つは,もし環境条件の変化で,ある世代から次の世代へ平均10ポイントのIQ値の上昇を説明しなければならないとすると,そうした変化は信じられないほど大きなものでなければならないということであった)。
もっと最近になってフリンは,ブルッキングズ研究所のウィリアム・ディケンズとチームを組み,IQ得点の上昇を説明するための特別な数学モデルを提案した。このモデルで,フリンとディケンズは,IQ得点の上昇は,実は時代につれての認知能力の向上を意味しているのではないかと示唆した。フリンとディケンズは,フィードバック機構により,前向きな内的・外的変化が個人の知的能力を高めるようなさらなる前向きな変化を生み出し,各個人の信用と機会が増大するにつれて,成功がさらなる成功を生むのではないかと示唆する。こうした変化の原動力となり,IQ値の上昇の原因となるこの社会的な変化がどのようなものかは,時代と場所によって異なる。さらに,社会の平均的な認知能力の全般的な向上は,個々人にフィードバックして,自らの能力をさらに増大させるような新しい挑戦をつくりださせることになると言う。
こうした正のフィードバック効果は,スポーツのような他の領域でも明らかで,時代につれてプレイの全般的なレベルが向上するにつれて,個々の選手は新しい挑戦に立ち向かっていく。能力の漸進的な増大は,競泳,トラック競技,フィールド競技などの個人スポーツにおいてもっとも顕著で,新記録がつくられつづけている。しかしチーム・スポーツでは,そのような技量レベルの向上がときに,矛盾した結果をもたらすこともある。たとえば,現在,三割バッターは,かつてよりもはるかに数が少ない。なぜなら,バッターの打撃は以前よりもどんどん向上しているのだが,ピッチングと守備の改善はそれを帳消しにしてあまりあるからである。同じような効果は,より高い認知的能力が要求される領域でも起こっており,成功が競争に依存することから,その技量レベルの向上を観察するのはむずかしい。
ロバート・アーリック 垂水雄二・阪本芳久(訳) (2007). 怪しい科学の見抜きかた:嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 草思社 Pp.129-130
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