さて,「ユニバーシティ」が,もとは学生の組合を指す言葉であったのに対し,「カレッジ(コレギウム)」は教師の組合を指す言葉として出発したようだ。教師たちは,団体化した学生に対して自分たちの権利を守るために,自らも団体化を進めた。学生たちの「組合=ユニバーシティ」の最大の担保が聴講料であったとするなら,教師たちの「組合=カレッジ」の最大の担保は学位授与権であった。こればかりは知識を糧とする教師の職能と切り離され得ず,すでに中世の大学でも,教師団は「博士(ドクトル)」「修士(マギステル)」「バカラリウス」といった学位を授与していた。学位としては最も低い「バカラリウス」は,教授補佐の免許のようなもので,助手資格に相当する。「ドクトル」と「マギステル」についていうなら,初期には両者は学位の階層というよりも,もともと「ドクトル」は法学が中心であったボローニャ大学の学位,「マギステル」は神学や自由学芸を中心とするパリ大学の学位を意味していたらしい。法学ドクトルは法律家の,学芸マギステルは自由学芸教師の専門資格を保証していた。
吉見俊哉 (2011). 大学とは何か 岩波書店 pp. 30-31
PR