したがって,12〜13世紀に「都市の自由」を基盤に「知の自由」をダイナミックに抱え込んだ協同組合的な場として誕生した大学は,近代世界が形成されてくる歴史のなかで一度は死んだのである。この16世紀から18世紀までの「大学の死」は,宗教戦争と領邦国家,印刷革命といういくつかの要因が折り重なるなかで決定づけられていった。宗教戦争と領邦国家は,それまでのヨーロッパ全土に及んだ都市ネットワークの時代,すなわち自由な移動の時代を終焉へと向かわせ,印刷革命は,大学などもはや必要としない仕方で近代的な科学や人文知の発展を可能にした。つまるところ,大学は宗教によってひき裂かれ,国家のなかに取り込まれることによって「自由」を失ったのであり,グーテンベルクの「銀河系」が,新たな「自由な学知」を大学以上に過度に実現していく基盤として浮上していったのだ。
吉見俊哉 (2011). 大学とは何か 岩波書店 pp. 66
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