今日の通年は,「アカデミズム」を大学の象牙の塔的な学問と同一視し,新しい時代の変化に対応できない権威主義的価値観とみなしがちである。しかし,「アカデミズム」の今日的起源が17,18世紀のヨーロッパでのアカデミーの隆盛にあるとするならば,この思い込みは二重に間違っている。まず,アカデミーと大学は当時,同じものではなく,むしろ対抗的な関係にあった。大学の保守性を批判し,新しい知を切り開く先端的役割がアカデミーには期待されていたのである。第2に,そうして浮上したアカデミーは,新しい時代に対応できない伝統性などとは正反対の,むしろ実学的で先端的,新しいものに対応して実験的な知を紡ぐ専門家集団を基盤としていた。「アカデミックな知」が敵対していたのは,今日の奇妙な思い込みが信じるような「ジャーナリスティックな知」ではなく,むしろ中世的な大学に端を発する「スコラ的な知」である。
吉見俊哉 (2011). 大学とは何か 岩波書店 pp. 77-78
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