この変化を大学制度の側からみるならば,米国の大学に決定的革新が起きたのは,1876年,イェール大学出身のダニエル・ギルマンが,新設のジョンズ・ホプキンス大学の学長に就任し,より高度な研究型教育を旨とする「大学院=グラデュエートスクール」を,新しい大学モデルの中核としてカレッジの上に置いた時からであった。これはいわば,それまでハイスクール的なカレッジ状態からなかなか抜け出せずにいた米国の大学が,ドイツ型の大学モデルに「大学院」という新規のラベルを貼って「上げ底」する戦略だったともいえるのだが,「大学」と「大学院」を分けてしまえば,旧来のカレッジ方式にこだわる教授陣を安心させ,しかも真に超一流の教授たちを大学院担当に据えていれば,全米全土から向学心に富んだ秀才の大学卒業生を集めることが期待できたから,まさに一石二鳥のアイデアであった。
吉見俊哉 (2011). 大学とは何か 岩波書店 pp. 104
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