私たちの五感は,あらゆる瞬間に1千百万要素以上の情報を取り込んでいる。科学者たちは,各感覚器にある受容細胞と,これらの細胞から脳へと向かう神経を数えて,この数字を割り出した。両目だけで,1秒当たり1千万以上の信号を受信し,脳に送信している。科学者たちはまた,人がどれだけ早く文字を読めるか,さまざまな光の点滅を意識的に検知できるか,異なるにおいを嗅ぎ分けることができるかといったことを調べて,任意の時点において,どれだけの信号が意識的に処理されうるかを明らかにしようとしてきた。その最も多い見積りでも,人が意識的に処理できるのは,1秒あたり約40要素の情報である。私たちは1秒あたり1千百万要素もの情報を取り入れているのに,意識的に処理できるのはそのうちのたった40要素にすぎないのである。いったい,残りの1千99万9960要素はどうなったのだろうか。このように信じがたいほど鋭敏な知覚を備えているにもかかわらず,入力情報を利用できる能力が非常に少ないシステムを設計するのは,あまりに無駄というものである。しかし幸運にも,私たちは,意識的自覚のないところで,この非常に多くの情報を有効に利用しているのである。
ティモシー・ウィルソン 村田光二(監訳) (2005). 自分を知り,自分を変える 適応的無意識の心理学 新曜社 p.33
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