ホモ・サピエンスは,かつての人類が到達できなかったありとあらゆる場所へあっというまに広がった。ユーラシア大陸を東端まで歩き通すのは,原人も,おそらく旧人も果たしたことだが,ホモ・サピエンスはそこから先が違った。航海術を得た集団は,インドネシアの島々や,ニューギニアやオーストラリアに至った。寒い地域でも生き延びられる技術を得た集団は,シベリア奥部にも進出して,やがてベーリング海の陸橋を渡り,アメリカ大陸へ拡散した。
ホモ・サピエンスの均質さは,地球を股にかけることができる能力の裏返しだ。長い時間をかけて身体を大幅に変えるのではなく,洗練された石器を使い,海洋には船を,寒冷地には毛皮の服をといったふうに,時と場合によって適した技術を創造しては乗り越えていった。
川端裕人(著) 海部陽介(監修) (2017). 我々はなぜ我々だけなのか:アジアから消えた多様な「人類」たち 講談社 pp. 257
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