プラシーボはイボの治療にきわめて有効であることが示されている。しかし,イボは明らかに主観的な疾患ではなく,ウイルスによって引き起こされるものである。オーストラリアの医師F・E・アンダーソンによれば,あらゆる病気のなかでイボの民間療法がもっとも多いが,それがプラシーボによく反応するものだとすれば,驚くにはあたらない。イボの民間療法のなかでも奇妙なものには,ほかの誰かにイボを「売って」もっていってもらう,ブタの脂肪でこする(なんとフランシス・ベーコン(!)によって示された),あるいはひそかに私生児の父親にこすりつける,といったものがある。イボは大人よりも子どもにはるかに頻繁に見られ,12〜16歳にその出現のピークがある。それは全身のどこにでもできるが,もっとも多いのは手である。
イボの3分の2は2年ほどで自然に消失するが,その理由はわかっていない。治療は皮膚に適用されるさまざまな局所薬剤が用いられ,外科的手術もおこなわれる。ある程度の成功を収めてきたイボを消すテクニックの1つに,催眠暗示があるが,これをプラシーボ処理の一種とみなす人がいるかもしれない。催眠術を用いる方法を批判する人のなかには,催眠のあとでの自然治癒の可能性を排除できないと示唆する人もいるが,しかし同じことは,他のいかなる治療法についても言える。いくつかの研究で報告されているところでは,催眠療法によるイボの治癒率は手術によるものに匹敵する。ある古典的な研究には,体の両側にイボをもつ患者たちが参加している。英国の医師A・H・C・シンクレア=ギーベンは,体の片側にあるイボ----より重症な側のイボ----を処置するのに催眠暗示を用いた。催眠治療してから5〜15週後に,処置された側のイボは消えたが,反対側のイボは10人の患者中,9人で残っていた。この結果を,自然治癒の可能性ありというのは非常にむずかしい。色をつけたただの水を患部に塗ると言う,興味深く,しかも有効なイボのプラシーボ処置の例もある。もちろん,患者にはその処置がプラシーボだとは教えられておらず,処置は信頼を与える形でなされなければならない。
ロバート・アーリック 垂水雄二・阪本芳久(訳) (2007). 怪しい科学の見抜きかた:嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 草思社 Pp.290-291
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