「クールエイドを飲む」というフレーズは,シリコンバレーでよく使われるが,普通の人が組織に飲み込まれ,熱狂的な信者に変わっていくプロセスをいう(訳注:1970年代に新興宗教の教祖がクールエイド風の飲み物を信者に与え,集団自殺した事件に絡め,「上の言うことをうのみにする」という意味で使われる)。アップルやグーグルは,クールエイド・ドリンカーだらけだと有名だが,IT系スタートアップ企業も,もれなくそんなふうらしい。うちの会社がしているのは単なる金もうけじゃない。ぼくらの仕事には意義や目的がある。うちの会社にはミッションがある,ぼくもそのミッションの一翼を担いたい——そう信じることが,こうした企業で働く大前提になっている。
これが,カルトと呼ばれる集団に加わるのとどう違うのかは,はっきりしない。忠実な社員と洗脳されたカルト信者の何が違うのだろう?どこまでが前者で,どこからが後者なのだろう?境界線はあいまいだ。故意か偶然か,IT企業は,カルト教団とよく似た手法を採っているらしい。独自の言語をつくっているのも,その一例だろう。
ダン・ライオンズ 長澤あかね(訳) (2017). スタートアップ・バブル:愚かな投資家と幼稚な起業家 講談社 pp. 88
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