ノシーボ(すなわち反プラシーボ)効果は,プラシーボ効果ほど広くは知られていないが,「邪悪な双子」と呼ぶことができる。プラシーボ効果は,患者は何らかの処置の結果として症状が改善することを予想し,のちに実際に改善される。ノシーボ効果については,患者はよくない結果になることを予想し,のちに実際に悪くなるのだ(「病いは気から」)。ノシーボは通常,医師がサディスティックでない限り,意図的に施されることはないが,配慮の態度を欠いた医師や,あるいは心配しているふりさえできない一部の医師が与えるメッセージのなかにノシーボ効果が内在していることがある。プラシーボ効果に関するデータの多くは,プラシーボを対照群として用いる臨床試験で蓄積されている。ノシーボにはそのような使い道がないので,それに関するデータは非常にわずかであろうと予想される。実際に,「ノシーボ」というキーワードで,メドライン・データベース[医療関連文献のデータベース]を検索するとたった33件しかヒットしない。これに対して「プラシーボ」をキーワードにした場合には7万件以上ヒットするのである(ただし,この比較はあまり額面通りに受け取るべきではない。なぜなら,負のプラシーボ効果について書いている研究者のなかに,「ノシーボ」という言葉を使わない人がいるかもしれないからだ)。
ロバート・アーリック 垂水雄二・阪本芳久(訳) (2007). 怪しい科学の見抜きかた:嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 草思社 Pp.311-312
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