とりわけ興味深い自然のノシーボ実験はシャーロック・ホームズの小説にちなんで「バスカーヴィル家の犬効果」と呼ばれているもので,この小説では,チャールズ・バスカーヴィルはストレスによって誘発された心臓発作で死ぬ。この研究は,特定の言語的な偶然の一致に注目したものである。広東語,北京語,日本語では,「四」と「死」はほとんど同じ発音である。その結果,多くの中国人,日本人は4という数字をきわめて不吉だと信じている。デイヴィッド・フィリップスとその共同研究者たちは,1973年から1998年のあいだの日別の死亡率を,20万人以上の中国人,日本人,アメリカ人について調べた。各月の日ごとの慢性心臓病による死亡数を比較すると,4日は他の日に比べて死亡率が13%も高いことを見いだした----これは統計的に有為な数値である。
カリフォルニアでは,膨大な数のアジア人口が集中したことで迷信的なおそれが広まりやすくなったのか,影響はさらに大きかった。4日の慢性心臓病による死亡率は他の日の平均よりも27%も高いのだ。コーカサス人種系のアメリカ人では,このような心筋梗塞による死亡率のピークが4日に見られることはない。フィリップスらは,4日のピークの原因となるさまざまなもの,すなわち食事,運動,アルコール摂取量,あるいは瞑想の養生法の変動に関連するものを排除してもピークが残ることから,心筋梗塞による死亡率の増大は心理的ストレスによるものだと結論した。
ロバート・アーリック 垂水雄二・阪本芳久(訳) (2007). 怪しい科学の見抜きかた:嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 草思社 Pp.312-313
PR