カモノハシは本当に,強烈に恐ろしい毒液動物だ。私の聞いたところでは,深いトラウマを残すような出来事と同じように,カモノハシに刺されるのもまた,人生を変えるような体験であるらしい。カモノハシの毒液は,数時間,ときには数日間にわたって耐えがたい痛みを引き起こす。記録されている症例の一つでは,狩りをしていた57歳の退役軍人が,怪我をしていたか,あるいは病気になっていたカモノハシに躓いた。彼は,その小さな生き物を心配し,持ち上げたところ,右手を刺されてしまった。親切が仇となり,彼は激痛のなかで6日間も入院しなければならなくなった。
彼の治療に当たった医師たちは,最初の30分間に,合計30ミリグラムのモルヒネを投与したが,ほとんど効果がなかった(ふつうの痛み止めに用いられる量は,1時間当たり1ミリグラムだ)。彼によれば,その痛みは,軍人の時に散弾で負傷したときよりもはるかに激烈なものだったという。医師たちが神経ブロック剤で,手のすべての感覚を麻痺させてはじめて,彼は救われたと感じることができた。
クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二(訳) (2017). 毒々生物の奇妙な進化 文藝春秋 pp. 18
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