科学的に言えば,「致死度」を測るさまざまな方法がある。もっともよく使われるのは,半数致死量で,LD50と呼ばれる数値だ。LD50は,投与された動物(ラットとマウスがもっとも多いが,さまざまなタイプの毒液を検査するため,ゴキブリからサルまでなんでも使われる)の半数が死ぬ毒素の用量のことである。基本的には,体重1キログラム当たりのミリグラム単位の毒素,すなわちmg/kgで表される。LD50の値は,おおざっぱな効力の見積もりであり,低い値をもつ物質は,微量でも対象を殺せる可能性が高いということなので,きわめて毒性が強いとみなされる。
たとえば,水のLD50は9万(mg/kg)以上であり,これはふつう無害とみなされるが,一気に6リットル以上も飲んでしまえば,死ぬ可能性もある(それを試すのはおすすめしない)。
一方,ボツリヌス毒素のLD50は1キログラム当たり1ナノグラムと算定されており,知られているかぎりもっとも致死的な物質の1つである。60ナノグラム,すなわち100億分の6グラムで,平均的な人間を十分に殺すことができるのだ。もし,均等に分けることができるとすれば,一握りもあれば十分に,地球上の全人類を殺すことができる。
クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二(訳) (2017). 毒々生物の奇妙な進化 文藝春秋 pp. 41-42
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