今のところ抗毒素は,動物の免疫系を「生きた製造工場」として利用することで生み出される。もっともよく選ばれるのは馬で,それは体が大きく(毒液を注射しても死ぬ可能性が小さく,また血液量が多いため抗体を含む血清が1回で多く採れる),飼育下での繁殖と維持管理が簡単だからである。ヤギとヒツジも頻繁に用いられるが,抗毒素は猫からサメまで,幅広い動物を使ってつくられている。
動物に抗体をつくらせるためには,慎重に決められた量の毒液とアジュバントを,ワクチンの組成とよく似た割合で注射する。すべてがうまくいけば,動物は大きな副反応もなく免疫反応を開始し,あと数回注射を受けることになる。実際に,何を,どこに,どんな頻度で注射するのかは,抗毒素を製造する会社が厳重に守っている秘密である。研究者たちは,望みの抗体を得るための秘訣を握っているのだ。
クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二(訳) (2017). 毒々生物の奇妙な進化 文藝春秋 pp. 70-71
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