しかし,ノシーボ効果やプラシーボ効果が意識的なレベルで働いている,あるいはプラシーボやノシーボが効果を発揮するためにはそうなると信じなければならない,という結論にとびつくべきではない。たとえば,動物実験では,動物もプラシーボ効果とノシーボ効果の両方を体験することが示されている。ある研究で,ラットに定期的に免疫抑制剤を注射し,同時にサッカリンで味をつけた水を与えた。しばらくたってから,同じようにラットに味つきの水を与えるが,今度は薬はなしにした。その後,ラット(およびサッカリンを与えていない第二のグループ)の免疫系を調べるために細菌を注射した。サッカリン味のする水と免疫抑制剤の組み合わせで条件づけをおこなわれたラットは,もはや免疫抑制剤を投与されていないにもかかわらず,他のグループと比較して,細菌に対する抗体のレベルが有意に低かった。この場合,サッカリン液と有害な薬剤とのあいだにラットが形成した連想は,薬の使用が中断されて何日もあとにさえ,免疫系への薬の影響を体験するよう彼らに「教えこんだ」ように思われる。この例では,味つきの水はノシーボであると考えることが十分にできるだろう。
ロバート・アーリック 垂水雄二・阪本芳久(訳) (2007). 怪しい科学の見抜きかた:嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 草思社 Pp.317-318
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