毒素の進化速度がこんなにも速いのは,新しい標的を攻撃するためではない——時間が経っても,毒素が同じ効果を持ちつづけるためなのだ。イモガイ類に見られるように,神経毒は,獲物を捕らえるには抜群の方法である。急速な麻痺によって,獲物の動きを鈍らせることができるからだ。しかし,ある捕食者が,獲物のナトリウムチャネルを閉じる毒液分子を使い始めた瞬間,獲物の側には,ナトリウムチャネルが毒素に反応しなくなるように進化する強い動機が生まれる。ときにはマングースのように,毒素の活性を妨げるには,ほんのわずかな突然変異だけで事足りることもある。
そのため,毒液動物はつねに,事態の変化に備えて,変化球でもストライクが取れる準備をしておかなければならない。もしくはイモガイ類のように,一時に数百個のボールを投げ,獲物がすべてを打ち返せないようにしておかなければならない。「イモガイ類がしていることは,併用薬物療法のようなものだ」と,トトは説明する。「彼らは一つの薬物だけを使うことはしない。つねに複数の化合物を使うんだ」。
クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二(訳) (2017). 毒々生物の奇妙な進化 文藝春秋 pp. 204
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