環境が変わり,ならわしも変わり,追い込まれた状態になると何が起こるだろう。適応するか死に絶えるか,この二つしか選択肢はない。マレーンは,開けた環境で大型ネコ科動物と対決する必要が生じたためにヒト科系列の適応に弾みがかかった,という考えを提出している。行動だけでなく形態も適応を余儀なくされたのかもしれない。160万年前のこのころまでにホモ・エレクトスは登場し,ホモ・ハビリスは消えてしまっていたようだ。マレーンによれば,大型ネコ科動物に捕食されることによって,進化のうえでは身長と体の大きさと下肢の長さに成長がもたらされた。木に登る能力と引き換えに大股で歩き出すようにもなった。いずれもホモ・エレクトスがもつ特徴だ。またホモ・エレクトスの化石からは,洗練された小型石器のようなそれまでまったくなかった道具の発展につながる,脳容量の著しい増大がはっきりわかる。ホモ・ハビリスで650cc,ホモ・エレクトスになると1000〜1100cc,この著しい脳容量の増加は,気候変動と大型肉食動物による捕食とが絡み合った結果,引き起こされた形態変化だとマレーンは考えている。
ドナ・ハート ロバート・W・サスマン 伊藤伸子(訳) (2007). ヒトは食べられて進化した 化学同人 pp. 101-102
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