集団生活がもたらす有効な作用の一つに「目視」がある。捕食者を探す個体の数が多いほど,相手から発見される前に相手を発見する確率が高くなるからだ。より多くの目はより多くの捕食者の発見につながる。このように目視に重きを置くことは,霊長類が嗅覚よりも視覚に依存している事実と一致する。
広い場所をくまなく見回す能力は,人間の能力に深く刻み込まれた特徴の一つでもある。実際の生活でも絵画でも,ある景色を目にすると誰もが心地よいと感じ落ち着きを覚えるのだが,それはなぜだろうか。18世紀ヨーロッパの画家たちは,なだらかな牧草地や丘陵地帯,点在する雑木林を芸術的に表現することで,この至福の境地に至っていた。コーネル大学のニコラス・二カストロは,広々として視界を遮るものがほとんどない土地を人間が好む傾向を調べ,次のように結論した。開けた地形では,捕食者が迫ってきて防御戦略を立てる間がなかったという羽目に陥る前に,捕食者を発見できる。驚いた。なんと,遠くまで広がる自然を見て喜びを覚える感覚が,自分たちを食べようとしている相手を正確に見定めることに関係していたのだ!
ドナ・ハート ロバート・W・サスマン 伊藤伸子(訳) (2007). ヒトは食べられて進化した 化学同人 pp. 233-234
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