筆者の考えが正しいとすれば,人類の祖先たちに二足歩行の最初の一歩を踏み出させた,これといった要因探しはしなくていい。最初のヒト科が暮らしていた環境には,二足歩行をすることが有利に働くような,たくさんの要因があった。このことをそのまま受け入れればいい。森の周縁や乾ききったサバンナに生息する霊長類が四足の姿勢を捨てたのは,食物や道具や武器を運ぶ,食事の間は真っすぐに座る,高めの低木から食物を得る,狩りをする,背の高い草越しにより広い視界を得る,体温調節を果たすといった要因のためではなかった。二足歩行という移動様式はすでに定まっている事実だった。そして二足歩行の成功あるいは利点は,単なる副産物だったのだ。多彩な生き物,つまり古代のわが祖先は,まず二足で歩くのに成功して,そのあとにこのような利点や,樹上と地上の両方の生活環境を利用できる能力を手に入れたのだ。
ドナ・ハート ロバート・W・サスマン 伊藤伸子(訳) (2007). ヒトは食べられて進化した 化学同人 pp. 242-244
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