潜在学習をあざやかに示して見せたのが,パウエル・レヴィッキ,トーマス・ヒル,エリザベス・ビゾーによる研究である。実験参加者に課された課題は,4分割されたコンピュータ画面を注視することだった。コンピュータ画面には,試行のたびに「X」という文字が1つの区画に現われ,参加者は4つのボタンのどれか1つを押して,それがどこに現れたかを答えた。参加者は知らなかったが,「X」の呈示方法は12パターンに分かれており,複雑な規則に則っていた。たとえば,「X」が同じ区画に2回続けて現れることは決してなかった。また,3番目の呈示位置は2番目の呈示位置に依存しており,4番目の呈示位置は,それに先行する2つの試行に依存していた。そして「X」は,少なくとも他の2つの区画に現れるまで,元の場所に「戻る」ことは決してなかった。正確な規則は複雑だったが,参加者はこれを学習しているようであった。試行が進むにつれ,遂行成績は着実に伸び,「X」が画面に現れた時に正しいボタンを押すまでの時間がどんどん速くなっていったのである。しかし,その規則がどのようなものだったか,またそもそも何かを学んでいたということさえ,誰1人言うことができなかった。
彼らが複雑な規則を非意識的に学んでいたということは,実験の中で次に起きたことから明らかになった。研究者たちが突然,規則を変更し,「X」が現れる場所を予測する手がかりを無効にしたのである。すると,参加者の遂行成績はがくんと低下した。彼らは「X」の呈示位置を検出するのに非常に多くの時間がかかるようになり,間違いもいくつかするようになった。参加者は,課題をうまくできなくなったことに気づいたが,それがなぜかということは誰もわからなかった。彼らは,今では通用しなくなった規則を学んでいたことをまったく自覚していなかったのである。かわりに,成績が急に悪くなったことに対する別の説明を,意識的に探していた。
ティモシー・ウィルソン 村田光二(監訳) (2005). 自分を知り,自分を変える 適応的無意識の心理学 新曜社 p.36-37
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