とはいえ,ここは実に奇妙な「社会学的実験」の場であり,われわれは一種のモルモットだったわけである。
一体,われわれが,最低とはいえ衣食住を保障され,労働から解放され,一切の組織からも義務からも解放され,だれからも命令されず,一つの集団を構成し,自ら秩序をつくって自治をやれ,といわれたら,どんな秩序をつくりあげるかの「実験」の場になっていたわけである----別にだれも,それを意図したわけではないが。
一体それは,どんな秩序だったろう。結論を簡単にいえば,小松氏が記しているのと同じ秩序であり,要約すれば,一握りの暴力団に完全に支配され,全員がリンチを恐怖して,黙々とその指示に従うことによって成り立っている秩序であった。そして,そういう状態になったのは,教育程度の差ではなかったし,また重労働のためでも,飢えのためでもなかった。
山本七平 (2004). 日本はなぜ敗れるのか----敗因21ヵ条 角川書店 Pp.112-113
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