戦後三十年,日本の経済的発展を支えていたものは,面白いことに,軍の発想ときわめて似たものであった。日本軍も,明治のはじめに,その技術と組織を,いわばあらゆる面での「青写真」を輸入して急速に発展していった。その軍事成長の速さは,絶対に,戦後の経済成長の速さに劣らない。否,それより速かったかも知れぬ。
その謎はどこにあったのか。輸入された「青写真」という制約の中で,あらゆる方法で“芸”を磨いたからである。そしてその“芸”が“名人芸”に達すれば,青写真の制約を乗り越えうると信じた。そしてそう信じたがゆえに「無敵皇軍」と称し,これが誇大表現であるにせよ,「無敵」に到達しうると信じたことは事実である。あらゆる“前提”は一切考慮せずに。
戦後も同じではなかったか。外国の青写真で再編成された組織と技術のもとで,日本の経済力は無敵であると本気で人びとは信じていたではないか。今でもそう信じている人があるらしく,公害で日本が滅びるという発想はあり得ても,公害すら発生し得なくなる経済的破綻で日本が廃滅しうると考えている人はいないようである。無敵日本経済の信仰は,まだまだつづくことであろう----石油問題がその前提の1つをゆるがしているのに。
山本七平 (2004). 日本はなぜ敗れるのか----敗因21ヵ条 角川書店 Pp.198-199
注)上記引用は,1975〜1976年に連載された文章である。
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