当時の成蹊小学校でも,子どもに対し,面接法によるメンタルテスト(知能テスト)を課していた。しかし,子どもの回答の出来/不出来による評価基準のみで合否を判定していたわけではなかった。
慶應義塾幼稚舎と成蹊小学校の学校関係者がともに入学志願者である家族(特に母親)に要望するのは,子どもに対して余計な手をかけていない,つまり必要以上の入学準備教育を施していないということであった。それは「純粋無垢」な子どもを選抜しようとしているようにも見える。だが,それは「何も知らないこと」(無知)を意味するものではない。成蹊小学校の入学選抜考査では,1から100までの数や図形の名称あるいは時間の概念を問う問題が出題されている。これらは小学校の教育課程に含まれた内容である。入学選抜考査で出題される限り,小学校入学以前の入学考査の時点で,ある程度の理解が前提になっている。ここから,私立小学校は,希望する入学者としての子どもについて,入学準備で親の手のかかり過ぎていない「子どもらしさ」(純粋無垢さ)とともに,小学校入学後に習得する知識の有無までも問うという,相当に矛盾した姿勢で入学希望者を選抜していたことになる。
小針 誠 (2015). <お受験>の歴史学:選択される私立小学校 選抜される親と子 講談社 pp. 107-108
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