そのなかでも知能研究は,当時の医師や心理学者がビネやシモンらの開発したメンタルテストを日本に移入・翻訳して以降,研究あるいは学校や家庭での実施・導入をめぐって,様々な論争を呼んだ。彼らは,実年齢以上の発達課題をクリアしている子ども,すなわち<標準>以上に属する「早熟児」または「優秀児」と,他方で<標準>以下に分類される「低能児(ママ)」や「未熟児」の発生要因を様々な方法で考究した。それのみならず,彼らはそれぞれの子どもの学校教育現場での処遇についても積極的に発言し,時には大論争を引き起こしたこともあった。
医学者,教育学者,心理学者たちは,市販の婦人雑誌やメンタルテスト問題集を通じて,家庭における子どもの知能の測定を奨励するだけではなかった。それとほぼ同時期の教育雑誌や育児書の一部には,師範学校附属小学校や私立小学校の入学選抜考査においてメンタルテストが導入されている現況とその重要性を伝達するようになる。
小針 誠 (2015). <お受験>の歴史学:選択される私立小学校 選抜される親と子 講談社 pp. 118
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