読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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日本でも,もちろん,結婚にかんする親等制限はあった。しかし,伝統的にかなりゆるやかで,過去にさかのぼるほどそうである。神話時代には兄弟・姉妹の結婚の例があるし,鎌倉時代まで,異父母の兄弟・姉妹の結婚は可能であった。江戸時代になって,ようやく,「オジと姪」,「オバと甥」の結婚が禁止され,また養親子,婚姻関係も血縁関係に準じて扱われるようになった。
これに対して,ヨーロッパの親等制限は,単にきびしいだけでなく,歴史的にみると,ちょうど日本の逆である。古い時代になるほどうるさくなる。9世紀から12世紀のころまでは,日本民法のやり方で計算すれば,14親等の間柄まで結婚できなかった。13世紀になって,やっと禁止範囲が8親等以内に縮小した。現在のカトリック教会法ではそれがさらにゆるやかになり,直系全部と6親等内の傍系血族,4親等内の傍系姻族だけが禁止の対象である(カトリック教会の親等計算方法は特殊なので,一般的な形で正確に日本民法にあわせることはできない。以上の親等数は,すべて概数である)。それでも,このゆるくなった現在さえ,日本よりはきつい。たとえば,従兄弟・従姉妹同志は,原則として結婚できないことになっている。
現在のことはさておき,過去の14親等あるいは8親等という制限は,一口にいえばなんでもないようでも,実際はたいへんなことである。社会移動がすくなく,かぎられた地域から配偶者をえらばなければならない時代のことで,うっかりしていれば,たちまち制限にひっかかる。なにも知らないで結婚したところ,あとでその結婚が無効だとわかるような場合もおこりかねない。また,離婚したいと思って,相手の近親関係を綿密にしらべなおしたところ,首尾よく親等制限にかかった,という悪意ある場合も十分に予想できる。
鯖田豊之 (1966). 肉食の思想 中央公論社 pp. 75-76