読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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こうなると,日本とヨーロッパの支配階級のあり方がちがうのは,根源的には,強烈な断絶論理があるかないかである。断絶論理のない日本では,支配・被支配関係はあまりはっきりしない。支配者とも被支配者ともつかないものが大量に存在し,そのような連中までが支配階級に格付けされる。いいかえれば,支配階級と非支配階級は,なだらかな曲線によって相互に移行するのである。
これに対して,動物,非ヨーロッパ人,ユダヤ人を順次疎外していくヨーロッパの強烈な断然論理が,さいごに「ほんとうの人間」として残すのは,ごく少数の支配階級だけである。支配者と被支配者ははっきりした一線によって劃され,どちらともつかないあいまいな存在はない。支配階級はあくまで孤高の特権階級で,必要もないのに,ほかの連中をよせつけたりはしない。
このことは,支配者の理想像を比較すれば,いちだんとあきらかになる。過去の日本で名君とたたえられた人物は,ほとんど例外なしに,質素な生活の実践者である。倹約であることを支配者の資質にかかげる政治論も多い。実際にはぜいたくのかぎりをつくした支配者も大勢いるが,そのような人物はけっして理想化されたりはしなかった。
鯖田豊之 (1966). 肉食の思想 中央公論社 pp. 91-92