年齢別死亡数から導かれる平均余命は,縄文人が短命であったことをいっそう明瞭に示している。小林が作成した生命表によれば,15歳時余命は男16.1年,女16.3年でしかない。15歳まで生存した男女も,平均すると31歳ころには死んでしまうと言いうことである。15歳時余命が男63年,女69年(1998年簡易生命表)の現代からはもちろん,40年前後の江戸時代後期と比べても,驚くべき短命な社会だった。
資料上の問題から除外された15歳未満の死亡を考慮すると,この驚きはもっと大きくなるであろう。年少人口の人骨は土壌中で溶解して残存しにくく,比較的条件のよい出土例でも全人骨の50%程度を占めるにすぎないが,後世の例を勘案すると,縄文時代の15歳までの生存率はそれよりはるかに低かったと考えられる。菱沼従尹は右の生命表に基づいて,出生時余命を男女ともに14.6年と推計している(『寿命の限界をさぐる』)。
もっとも,縄文人の平均余命が狩猟採集民として特別短かったというわけではなさそうである。世界各地の狩猟採集民はほぼ似たようなものであった。自然条件に強く依存する不安定な生活基盤が短命の原因であったと考えられる。
鬼頭 宏 (2000). 人口から読む日本の歴史 講談社 pp.42-43
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