私たちが特に注目したのは体重変化で,それが友人の行動と,周囲のコミュニティ内にいる同窓生のどちらからより大きな影響を受けるかを調査した。一般的に,人々が普段から接している人物の中で友人と呼べるのは数人だけで,残りはそれほど交流することのない「知人」といった程度の存在である。知人と友人が重なりあうことはごくわずかで,この2つのグループはまったく異なる存在である。
研究の結果,調査対象となった学生の体重変化と,体重が増えた同窓生の存在との間に強い関連性が認められた。しかし体重を減らした同窓生の存在との間には,関連性は認められなかった。また体重の変化した友人がいても,彼らと交流することは体重変化には何の影響も及ぼしていなかった。同じ傾向は食事習慣においても確認され,同窓生との接触が影響を与えていた。
この場合では,問題となるのは直接的なやり取りだけではなかった。体重が増加した人々の行為に,直接的な交流もしくは間接的な観察を通じて,合計でどのくらい接したのかという量が重要だったのである。言い換えれば,他人の行動がたまたま目に入ったり,あるいは他人の行動に関する話が耳に入ってきたりするだけで,アイデアの流れが発生し得るのだ。場合によっては,それは会話や電話,ソーシャルメディア上でのやり取りのように,より直接的な交流が生み出す場合以上の流れになる。またアイデアの流れは,他人から「私はこう行動している」という話を聞くよりも,彼らが実際にどのような行動をとっているかを目にした方が生まれやすくなる場合がある。
アレックス・ペントランド 小林啓倫(訳) (2015). ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 草思社 pp. 64-65
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