別の測定基準も存在する。家系図のことは誰でも知っているだろう。祖先が,たとえば曾祖父母を筆頭に祖父母,両親など,木が枝を広げるように描かれている。世代を経るごとに枝の数は増大する。ここでは,地球上のすべての生物についての家系図を考えてみる。あまりにも多くの生物が存在しているため,家系図は一本の木というより,まるで枝々があらゆる方向に伸びた灌木林のように見えるだろう。それを,第一世代が中心にあり枝が外に突き出るような丸い灌木林だと想像してみる。そして私たち人類をその林のなかの,時計の針で言えば八時の位置に置いてみよう。
ここで質問。私たちがトウモロコシと呼ぶ農作物は,その林のどこに位置するだろうか。一般的に言えば,緑色植物であるトウモロコシが,自分たちに遺伝的にそれほど近いとは考えないのではないだろうか。トウモロコシは円周上の反対側に位置すると思うかもしれない。しかしそれは間違いで,トウモロコシは8時01分に位置する。ヒトとトウモロコシが,遺伝的にそれほど近いのであれば,林の残りの部分と枝を占めているのは何者なのか。答えは,その大半が細菌ということになる。たとえば,よく知られている大腸菌とクロストリジウム属菌の遺伝的距離は,トウモロコシとヒトの遺伝的距離より遠い。人類は細菌が圧倒的優勢である世界の小さなシミにすぎないとも言える。私たちはこうした考え方に慣れる必要がある。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 16
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