私は現在進行している日本の出生率低下は,人口転換の最終局面を実現するプロセスではないかと考えている。出生率の低下によって間もなく始まる人口減少や著しい少子高齢化はわれわれにとって初めての経験である。しかしだからといって悲観することも,あわてて出生率の反転上昇を期待して資金や時間を投じることもない。
人口停滞を高度経済成長期以後の経済停滞や,豊かになった社会でいつまでも成熟しない若者の身勝手によるものと考えられることが多い。このような説明は反面はあたっていると言えそうである。なぜならば,歴史的に見て人口の停滞は成熟社会のもつ一面であることが明らかだからである。縄文時代後半,平安時代,江戸時代後半がそうであったように,人口停滞はそれぞれの文明システムが完成の域に達して,新しい制度や技術発展がないかぎり生産や人口の飛躍的な量的発展が困難になった時代に起きたのである。人口停滞は文明システムの成熟化にともなう現象であった。
鬼頭 宏 (2000). 人口から読む日本の歴史 講談社 pp.268-269
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