食事の変化も,細菌叢にそれほど大きな影響は与えない。数カ月,もしくは数年にわたって,腸内細菌の構成は安定している。しかし個々人で見ると,その構成は異なっている。地中海地方の食事を二週間にわたって食べるという小さな研究があった。高い繊維質,全粒穀物,乾燥マメ類,オリーブオイル,果物と野菜を五杯。これを毎日食べる。こうした食事は心血管疾患のリスクを低減する。調査協力者は,血中脂肪量を測定するための血液と,どのような細菌が存在するかを調べるための便を,実験の前後で提供した。コレステロールの総量は低下した。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLも低下した。しかし研究協力者の細菌叢に変化は見られなかった。各人は,まるで指紋のように,独自の細菌叢を有していた。それは食事が変化しても変わらなかった。しかし他の食事研究では,細菌叢に変化が見られたというものもある。最近の研究では,植物由来の食物のみ,動物由来の食物のみといった食事への切り替えは,細菌叢に変化をもたらすことがわかっている。しかし,それは食事を変えた期間しか持続しなかった。食事を一年間にわたって変えた場合に,細菌叢の変化が恒常的なものになるか否かは,今のところわからない。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 38
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