細菌存在下で育てられ,かつ,低容量の抗生物質を与えられたニワトリは,抗生物質非投与群のニワトリよりも大きく育った。一方,無菌下で飼育されたニワトリは,抗生物質を投与されたニワトリもされなかったニワトリも,成長に違いが見られなかった。驚くべき結果だった。これはニワトリの常在細菌が「成長促進」効果の発揮に必要だということを示している。抗生物質は単独では効果がなかった。この発見は50年以上も前になされていながら,無視され,そして忘れられていたのである。
要は,5パーセント,10パーセント,15パーセントの家畜の体重(食肉)増を低コストで達成できることに,畜産業が気づいたということである。当然の帰結として,彼らが投入する餌に対して得られる食肉は増えた。製薬会社も,抗生物質を畜産家に売ることで巨額の利益が上がることを発見した。医師にミリグラム単位で抗生物質を売るのと違い,こちらはトン単位での商売である。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 91
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