私の中心的考えを繰り返しておくと,それは,常在菌が繁栄するに従い,ヒトはそれら細菌とともに,代謝,免疫,認識を含む集積回路を発達させる,というものだ。ところが私たちは,常在菌へのこれまでにないほどの激しい攻撃に直面している。何でもかんでも抗生物質や他の近代的医療実践のせいにしようとしているように聞こえるかもしれないが,私が指摘しているのは20世紀後半に劇的に増加した諸疾患についてで,その時期は近代的医療が展開された時期でもあった。確かに,それぞれに個別の原因が存在している可能性はあるし,実際にそうだろう。しかし多くの人びとに臨床的な沈黙から明らかな病態への一線を越えさせるような,単一の要因の存在もありうる。それは防御機能の残高が枯渇しているときに蓄えを失い,新たな出費があるたびに残高がマイナスになっていくようなものである。幼少の成長期にマイクロバイオームの構成が変化を被ることがその原因ではないだろうか。私はそう考えている。5年前に予想したように,ある世代の変化は,次の世代にも影響を与える。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 204
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