M・キース・チェンとジャセ・シャピロという2人のエコノミストは,連邦裁判所が用いる明確な分断線を利用して,状態の悪い刑務所が再犯率に及ぼす影響を調べた。米国では連邦刑務所の収監者は罪状と犯罪歴に基づいて点数を与えられ,この点数によって収監体験が決まる。高得点者は高度警備矯正施設に送られ,ひいては他者との触れ合いや移動の自由を限られ,刑務官や他の収監者からの暴力を受ける可能性も高まるのだ。
ここでも高度警備の施設に送られる収監者全体と低警備度の施設に送られる収監者全体を比較するわけにはいかない。高度警備度施設の収監者は殺人者やレイプ犯が多く,低警備度ではドラッグ関連や軽度窃盗犯が多いからだ。
だがそれらの施設を分ける分断線ぎりぎりの収監者は,罪の重さや犯罪歴の点でほぼ同一と言える。しかしごくわずかな点の違いが,非常に異なる収監体験に続くのである。
研究の結果,より過酷な環境に置かれた収監者は,出所後の再犯率が高かった。過酷な環境は,犯罪を抑止するのではなく,むしろ収監者の態度を硬化させ,シャバに出た後に,より暴力的にしていたのである。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 267-268
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