では,スタイベサント高校の回帰不連続分析の結果はどうだったか?この研究を担ったのはMITとデューク大学の研究者ら—アティラ・アブドゥルカディログル,ジョシュア・アングリスト,パラグ・パサック—である。彼らは合否線ぎりぎりの学生たちのその後を調べた。イルマズのようにあと1問か2問で合格を逃した学生たちと,合否線を1,2問で上回って首尾よく合格した人々のその後を大規模に比較したのである。成功の基準はAP成績,SAT得点,そしてやがて進学した大学のランキングとした。
その結果の衝撃は,彼らの論文の題名—『エリート幻想』—が雄弁に物語っている。スタイ高入りした影響?まったくのゼロだった。合否線のわずかな上下に位置した人々は,同等のAP成績やSAT得点を上げて同等の大学に進学していた。
スタイ校出身者が他の高校の出身者よりも栄達する理由はただ一つ,もともと優秀な人間を採っているから,というのが研究の結論だった。同校の学生がAPやSATの成績が良いにしても,果てはより良い大学に進学しても,それはスタイ校での教育を原因とする結果ではない。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 268
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