証券市場を予測する戦術を,ラッキーコイン探しだと考えてみよう。ただしそれを見つけるためには,次のような厳密な試験が必要だとする。まず1000枚のコインに1から1000まで番号をつける。あなたは2年間毎朝,それをすべてトスして表が出たか裏が出たかを記録し,合わせてその日のスタンダード&プアーズ(S&P)平均が上げたか下げたかも記録する。そしてその全データをじっくりと研究する。そしてついに気がつく。コイン391番が表だと,S&P平均が上げる確率は70.3%だ!この関係は統計学的には完全に有効だ。ラッキーコインを見つけたのだ!毎朝,コイン391をトスして表になるたびに株を買えば,もう安物のTシャツを着てインスタント・ラーメンをすする生活ともおさらばだ!
……などと結論づけるなら,あなたも悪魔のような「次元の呪い」の犠牲者の一人となる。この呪いは,多くの変数(次元)—この場合は1000枚のコイン—を,それより少ない観察—この場合は2年間で延べ504日の場の引け値—で調べようとすると必ず降りかかる。変数の1つ—この場合はコイン391番—が上げ相場を予告できると解釈しやすくなるのだ。だが変数を減らすと,たとえばコインの枚数を100枚に減らすと—ある1枚のコインの裏表が上げ市況に一致する確率は大幅に下がる。観察の回数を増やすと—たとえばS&P平均の結果を20年にわたって記録するなら—コインの予測力はついていけなくなる。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 280
PR