集団が集合的な適応能力(集団が全体として状況の変化に対応する能力)を得るには,ふつう,非線形的な規則だけでは十分でない。複雑性理論家のジョン・ミラーとスコット・ペイジは,その適応能力について,仏教の八正道をふまえ,おおよそそれに基づいた次の8つの基準を挙げている。
正見 集団内の個体(複雑性の科学者はそれを行為者[エージェント]と呼ぶ)は,集団内の他の個体や広く世界から情報を受け取り,それを理解しなければならない。
正思惟 エージェントは,達成したいと思う何らかの目標を持たなければならない。たとえば,魚は食べられるのを避けたいというものでもいいし,人は政治的変化を実現するために集団で行動したいと思うものでもいい。
正語 エージェントは情報を受け取るだけでなく,送らなければならない。これは必ずしも言葉による必要はない。たとえば,キイロタマホコリカビのような粘菌がグレッグスの状態にあるときは,化学物質によるメッセージを送って通信するし,私たちの脳のニューロンは電気的な刺激をやりとりする。
正業 エージェントは何らかの形で付近のエージェントの行動に影響を及ぼすことができなければならない。
正命 エージェントは集団内での自らの行動に対して,行った仕事に対する給与であるとか,仕事をしなかったら辞めさせられるといった罰の恐れなどの,何らかの賞罰を受け取らなければならない。
正精進 エージェントは,他のエージェントの行動を予測したり,それに対応したりするときに使える戦略を必要とする。
正念 合理性にはいろいろな種類や水準がある。複雑な社会にいる私たちのエージェントとしての課題は,各人にとって正しい水準の合理性を選んで用いることである。
正定 複雑性がどう生じるかを理解するには,時として,昔ながらの科学的手法に戻らなければならないことがある。つまり,1つか2つの重要な過程に狙いを定め,一時的に他は無視してみるのである。
レン・フィッシャー 松浦俊輔(訳) (2012). 群れはなぜ同じ方向を目指すのか? 白揚社 pp. 31-32
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