アリのやり方はこれとは少し違う。アリたちは,正のフィードバック原理を使って精確な近似解を求めるのである。コンピュータ・シミュレーションに登場する仮想昆虫は,16の都市をすべて訪れてから戻ってくるよう指示されたのち,架空の世界に解き放たれる。あらゆる都市は架空の線(「リンク」と呼ばれる)で互いに遺漏なく結ばれていて,各都市間の距離はその線の長さで表されている。
このシミュレーションが巧妙なのはここからだ。仮想のアリは自分がどれだけ移動したかを覚えていて,巣に帰ってくると,それぞれのリンクに道のり全体の長さに応じた数字をつける。数字がフェロモンの代用というわけだ。各リンクには同じ数字が割り当てられるが,全体の道のりが短くなるほどその数字は大きいものになる。したがって移動をする仮想のアリの数が増えるにつれて,最短距離の道のりに含まれているリンクの数字は加算されていく(フェロモンが濃くなっていく)ことになる。さらに,後から移動するアリがリンクを選ばなければならない場面では,一番大きな数字がつけられたリンクを選ぶようプログラムされているので,数字はさらに増える。
この後がさらに見事である。そうした数字が,あらかじめ定められた割合で少しずつ減らされていくのである。現実の世界では通りに道に残されたフェロモンは蒸発するので,それに対応させているわけだ。こうして,(使用頻度が低い通り道ではフェロモンが蒸発し,徐々に顧みられなくなるのと同様に)使われないリンクの数字が大きく減っていき,いちばん効率的なリンクが前よりも目立つようになる。ここまでくれば,それほど時間はかからない。蟻コロニー最適化がその任務を果たしたのである。
レン・フィッシャー 松浦俊輔(訳) (2012). 群れはなぜ同じ方向を目指すのか? 白揚社 pp. 62-63
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