アローがまず調べたのは,理想的な投票方式には何が求められそうかということだった。そこから判明した必要基準をすべて挙げると,次のようなものになる(アローはもっと専門的に定めているが,ここではわかりやすく言い換えた。
1 完備性——選択肢が2つあるとき,かならずどちらか一方を選べるような投票方式であること。
2 全会一致——一方が他方に比べてよいとすべての個人が考えているとき,投票結果もこの選択を反映していること。
3 非独裁性——社会的な選好は,他のすべての好みを無視して,一人の人物の好みだけに基づくことはありえないこと。
4 推移性——社会がYよりXを望み,ZよりYを望んでいることが投票結果からわかったとき,社会はZよりXを望んでいることになること。
5 無関係な選択肢の独立性——三つの選択肢があるとき,そのうち二つの序列は,第三の選択肢の順位には影響されないこと。
6 普遍性——個人が選択に順位をつけるとき,ありうるものであれば,どのような順位でも認められること。
これらの基準の中には自明に思われるものもあるかもしれないが,民主主義の投票制度としてはどれも明らかに妥当なものである。しかし,アローの不可能性定理(社会選択の逆説とも呼ばれる)が証明したところによると,私たちはこうした基準すべてを同時に満たすことはできない。具体的に言うと,私たちが多数決を選択すれば,コンドルセの逆理によって「推移性」が満たせなくなるし,また私の父のような独裁的な手法を使えば,3番目の基準である「非独裁性」から外れてしまうことになる。
実際,この逆説から逃れる方法はない。どんなにやりくりをしても,またどんな投票方式を採用しようと,アローの基準のうち必ず1つは捨てざるをえないのである。
レン・フィッシャー 松浦俊輔(訳) (2012). 群れはなぜ同じ方向を目指すのか? 白揚社 pp. 132-133
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