ブローカとウェルニッケ二人の研究から,話すことと理解することとは切り離されているという,いわゆる「二重乖離」が示された。ブローカ野が損傷を受けた場合,言葉を発することはできなくなるが,理解することは問題なくできる。ウェルニッケ野が損傷すると,理解することはできなくなるが,言葉を発することはできる。このことは,心が「モジュール(機能部品)」から組み立てられていることを示す重要な証拠となった。言語能力は,他の動物にはなく,人間だけが持つ能力だから,それ以外の心的能力とはっきりと区別されていても不思議はないと思えるかもしれない。しかし言語能力がさらに,言葉を生み出す能力と,言語を理解する能力とに分割されるかどうかはそれほど自明ではない。あるいはブローカとウェルニッケ以前は自明ではなかった。二人はそれら二つの能力が,確かに分割されていることを明らかにしたのである。
セバスチャン・スン 青木薫(訳) (2015). コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか 草思社 pp. 47-48
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