シナプスを介したコミュニケーションが持つこれらの特徴——速さ,特異性(特定の物質に対して選択的に働きかけること),そしてタイミングの正確さ——は,わたしたちの体内で起こる,それ以外のタイプの化学物質によるコミュニケーションにはないものだ。道を歩いていてぶつかりそうになった車から飛びのいたとき,あなたの心臓は早鐘を打ち,息が荒くなり,血圧が跳ね上がる。そうなるのは,あなたの体内の副腎からアドレナリンが血中に出て,あなたの心臓,肺,血管の細胞によって感知されるからだ。この「アドレナリンラッシュ」の反応は,瞬時に起こっているように思えるかもしれないが,じっさいにはかなり遅れがある。それらは,あなたが車から飛びのいた後で起こっているのだ。なぜなら,アドレナリンが血流を介して広がる速度は,ニューロンからニューロンへの信号の伝達に比べて時間がかかるからである。
セバスチャン・スン 青木薫(訳) (2015). コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか 草思社 pp. 96
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