1960年代にはほとんどの神経科学者が,子どもが成長して大人になってしまえば,もはやシナプスは生成されることも除去されることもないと考えていた。この考えは,経験的事実というよりはむしろ理論的思い込みだった。おそらく当時の神経科学者たちは,脳の発達プロセスを,電子装置を組み立てるようなものと考えていたのだろう。電子装置を組み立てるためにはたくさんの配線が必要だが,いったん装置が動き出してしまえば配線を変更する必要はない。あるいは神経科学者たちは,シナプスの強度を変えることは,コンピュータのソフトウェアを変えるのと同じように簡単だが,シナプスそれ自体は,ハードウェアのように変化しないと考えていたのかもしれない。
しかしこの10年間に,神経科学者たちはその考えを180度転換した。今日では,大人の脳でもシナプスは生成されたり除去されたりするということが広く受け入れられている。二光子顕微鏡という新しい生体イメージングの手法を使って,ついに説得力のある証拠が直接的に得られたのである。
セバスチャン・スン 青木薫(訳) (2015). コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか 草思社 pp. 144-145
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