赤と黒がそれぞれ連続して出た回数を,ホイールがランダムだった場合に見込まれる頻度とピアソンが比べると,どうもおかしかった。同じ色が二回か三回続けて出ることが,本来あるべき頻度を下回っていた。そして,色が交互に(たとえば赤,黒,赤という具合に)出ることがあまりに多すぎた。ピアソンは,ホイールが本当にランダムだと仮定した場合に,少なくともこの頻度まで極端な結果が出る確率を計算した。この確率(彼はそれを「p値」と名づけた)は,ごく小さかった。実際,本当に小さかったので,地球の歴史が始まって以来ずっとモンテカルロのルーレットテーブルを眺め続けていたとしても,それほど極端な結果を目にすることはとうてい見込めないとピアソンは述べている。それは,ルーレットが偶然性に左右されるゲームではないという決定的な証拠だと彼は考えた。
この発見に彼は激怒した。ルーレットのホイールがランダムなデータの格好の供給源になってくれればと願っていたのに,彼の巨大な「カジノ実験」が生み出す結果は信頼できないのだから腹が立った。「科学者は半ペニー銅貨を投げたときの結果を誇らしげに予測するだろう。しかし,モンテカルロのルーレットは彼の理論を混乱させ,法則を馬鹿にするように振る舞う」とピアソンは述べた。ホイールが自分の研究にはほとんど役に立たないのが明らかになったので,カジノは全部廃業にし,その資産は科学に寄付させるべきだとピアソンは提案した。ところが後日,ピアソンが得た異常な結果は,本当はホイールに欠陥があったせいではなかったことが判明した。『ル・モナコ』紙は記者たちにルーレットテーブルを見守って結果を記録するようにお金を払っていたのに,彼らは手抜きして数をでっち上げていたのだった。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 27-28
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